☑️【2分で読める要約版】
結論:
介護保険制度を活用した住宅改修は、介護を受ける人だけでなく、介護する家族の身体的・精神的負担も軽減する効果があると最新研究で明らかになりました。
研究概要:
全国の65歳以上の介護者1万人から抽出し、住宅改修経験者238人のデータを分析。手すり設置や段差解消などの改修内容と負担軽減効果を調査しました。
主なポイント:
- 身体的負担の軽減
床材変更・段差解消で移動介助の負担が減少。段差解消は特に有意な負担軽減効果(p=0.005)が確認。 - 精神的負担の軽減
床材変更により滑りや転倒リスクが減り、介護者の不安が軽減(p=0.009)。 - 目的意識が効果を左右
「介護者の負担軽減」を目的に明記して改修した方が、効果が高まる傾向。 - 多職種連携の重要性
ケアマネだけでなく、医師・PT・OTなど複数の専門職が関与すると改修の満足度が向上。
提案:
- 床材変更・段差解消を積極活用
- 介護者負担軽減を明確に目的設定
- 多職種の連携による計画づくり
まとめ:
介護保険の住宅改修は、家族全体の暮らしを支える大きな力になります。計画段階で「介護者の負担軽減」を意識することが、成功のカギです。
結論(Point)
介護保険制度を活用した住宅改修は、介護される側だけでなく介護を行う家族の負担軽減にも大きく貢献することが最新の研究によって明らかになりました。とくに「床材の変更」「段差の解消」「手すりの設置」などの具体的な改修が、身体的・精神的な負担を軽減する効果を示しています。
理由(Reason)
介護の現場では「老老介護」と呼ばれる高齢者同士の介護が増加しています。厚生労働省の調査によれば、要介護者・介護者ともに65歳以上というケースは全体の約63.5%を占めています。高齢の家族が高齢の家族を支える現実のなか、介護負担は日々深刻化しているのです。
この負担を少しでも和らげる策として期待されるのが住宅改修です。介護保険制度では、住宅改修費用が支援対象となっており、手すりの取り付け、段差解消、床材変更などが助成の対象になっています。制度創設以降、毎年およそ40万件の住宅改修が行われています。しかし、これまでは「要介護者の生活の質向上」に焦点が当たっており、介護者への効果についてはあまり検討されてきませんでした。そこで行われたのが今回の研究です。
具体例(Example)
この研究では、全国の65歳以上の介護者1万人から無作為抽出し、介護と住宅改修を経験した373名を対象にWebアンケートが実施されました。有効回答238件をもとに、改修内容とその効果が詳細に分析されています。
① 身体的負担の軽減効果
改修直後の評価では、介護者の身体的負担軽減が「平均7.74点(10点満点中)」、現在でも「7.71点」と高い評価が得られました。中でも床材の変更や段差の解消が特に有効であり、これらの改修があると負担軽減の評価が有意に高まることが分かりました。
例えば、段差の解消を行ったケースでは「介護者の身体的負担軽減」に関する評価で統計的に有意な差(p=0.005)が認められています。段差の解消により、移乗や移動介助の負担が軽くなることが要因と考えられます。
② 精神的負担の軽減効果
また、介護者の精神的負担に対しても改善が認められました。とくに「床材の変更」を実施した群では、精神的負担軽減において有意な改善(p=0.009)が示されました。滑りや転倒のリスクが減ることで安心感が高まり、精神的ストレスが軽減されるのです。
③ 改修目的が明確だと効果も高い
さらに興味深いのは、「介護者の負担軽減」を目的として明記した改修では、負担軽減効果がより高く評価されている点です。改修前に誰のための改修なのかを明確にすることが重要だといえます。
④ 多職種が関与するほど効果が高まる
改修に携わる職種の数が多いほど、負担軽減の効果が大きいことも分かりました。ケアマネージャーだけでなく、医師・理学療法士(PT)・作業療法士(OT)といった医療専門職が連携することで、より的確な改修が実現できるのです。
提案(Proposal)
今回の研究から学べるのは、介護保険による住宅改修は「制度を活用するだけでなく、計画段階でどこまで介護者負担軽減を意識できるか」がカギになるということです。具体的には以下の3つをおすすめします。
床材変更・段差解消の積極活用
滑りにくく移動しやすい床材、段差のない移動経路を整備することは、介護者・被介護者双方にとって大きなメリットがあります。
介護者負担軽減という明確な目的設定
申請書類や打合せ段階で「介護者の負担を減らす」ことを意識し、その効果を最大限に引き出しましょう。
多職種によるチームアプローチ
医療・介護の専門職が早い段階から連携し、利用者・家族にとって最適な住宅改修を検討する体制づくりが重要です。
おわりに
介護保険制度の住宅改修は、単なるバリアフリー化ではなく、家族全体の生活を支える大きな力となり得ます。今回の研究はその可能性を科学的に裏付けた重要な成果と言えるでしょう。これから介護の現場に携わる皆さんは、ぜひ「介護者の負担軽減」という視点を改修計画に取り入れてみてください。
参考文献
橋本翔也・崔熙元(2025)『介護保険制度による住宅改修が介護者にもたらす効果に関する研究』日本建築学会計画系論文集, 第90巻, 第831号, pp.906-911.
JSTAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja
※詳細な内容に関心のある方は、原著をご参照ください。
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